装丁家デビューです&書籍デザインの実際
ついに、装丁家デビューです。
思えば、21歳まで画家になるつもりだったのです。
やっと少し近づいた気がします、いやいやこんなもんじゃするわけないけど
とにかくいつもと違うことできて愉しかった。
ビジュアルのほうが適性あるなと自覚する。
今日は、装丁やることになったいきさつや考え方を記しつつ、
書籍に関わる方々以外に、
どうやって書籍のデザインを考え、装丁が進んでいくかを解説してみます。
知らない方ならかなり興味深いはず。
出版に関わり始めて30年、書籍作り始めて18年。
著書、共著的な構成の本、プロデュース&編集者としての本と、
180冊に関わってきましたが
→全部並んでるのはココ
→ココにもジャンル分けて
→版元別、著者別、デザイナー別の一覧はココ
完全に自分でデザインしたのは初めて。
と言っても強い意志で「今度は装丁やるぞ!」と意気込んだわけでなく
企画通すための行きがかり上という感じ。
手がけたのは、5/18に発売されるオピニオンの本。
自分でプロデュース・編集したので、一人3役ということになります。
この本の内容や、著者の G・D グリーンバーグ氏についてなどは
記しておきたいことが山積みなので、発売が近づいたら改めて書きます。ごりっと。
非常に素晴らしい、共感できる発言を拝見し、
これはどうしても本に残したいと思ったのが、昨年春。
G氏と懇意にしていることを知っていた僕の知人、
音楽評論家で、野球文化評論家のスージー鈴木さんにメールしたのが
5/27と、発売の1年前。
6月初めにスージーさんと3人でお会いし意気投合(あ、日本語ぺらぺらです)。
企画書作ったのが7月5日。
彩流社さんで企画が通ったのが9月12日。
なのですが、実作業に取りかかったのは、今年の1月下旬からでした。
ここらの時間の流れについては改めて。
すばらしい本になることはわかっていましたが
この企画は通しにくさではかなりのものだとも、自覚していました。
まったく世に出ていない人の本を出すのは(僕の場合はしょっちゅうそうだけど笑)
どこの版元もかなり嫌います。
売れる保証ゼロでリスキーなことには目を向けてもらうのは難儀です。
はい、苦戦間違いなし。
こういうときプロデューサーとしての僕がやることは
<カバー>と<本文組>を作って企画書と一緒に見せること。
自分の中にある仕上がりイメージを形にしてしまう。
一応言っておきますと<カバー>とは普通の人の感覚では<表紙>ですね。
これに、<帯>のコピーも考えてつけてしまいます。
これをやる意味としては、企画を出す版元の担当者に書いているつもりはなく、
彼や彼女らが、さらに会議に出したり上司に見せたりするための材料を作っているのです。
いくら文字で説明していてもピンとこないから、というか
そもそも会議で通りにくいとわかっているネタは
面白いけどその面白さが伝わりにくいうえに、
営業の方など、売れそうもないと判断したくてうずうずしてる(笑)わけです。
なので、少しでもこちらがこれならいけんじゃないかと思わせる材料は用意しなきゃソン。
『キャンパスに蘇るシベリアの命』『犬と、いのち』
などはこのパターンで進めました。
『日本は、』も、同様にしようと最初から考えてましたが
今回は特に「とにかくこれはすべてにおいて目立たないと話しにならん!通らない!」
を念頭に置いてスタート。
しかしながら、堂々たるオピニオンである王道感も出したいと。
考えていたらタイトルは意外とスムーズにふっと出ました。
とにかく堂々としています。
タイトルに続いて帯も自然な流れでさらさらと決まった。
そこでいよいよ最大の重大案件、カバーのアイデア。
これがまた悩まずにぱっと出たんですよ。
「日本というこれ以上ない堂々としたタイトルだからこそ、
日本が大好きなアメリカ人が示唆するアメリカとの関係を現すには星条旗だ」と。
こうなったら話しは早い。
星条旗は横にしたらビジュアルとして面白くもなんともない。
ズバリ縦でしょう。
さっと落書きしてみたら結構ハマッてるじゃんか。
と、月2回事務所に来る美大生バイトさんに指示して作った企画通し用カバーがこれ。
最初、『日本』で企画書作ったのですが出している間に
『日本は』と、含みを持たせてるほうがキャッチーだなと変更。
『日本は、』と<、>を入れたのは、
制作し始めてから出たグリーンバーグさんのアイデアです。
続いて肝要なのが<本文組>。
G氏のツイートがとても心地よく、最初からそれを生かす形で考えていまして、
通常の小説のような<流し込みの本文>ではないので、
企画会議用ならば形にして見せるが勝ち。
でバイトさんに大急ぎで組んでもらった最低限のものがこれ。
さあここで。
企画通すとして、通ったあとで、ここまで明確に、
プロデュースの立場としてイメージ固まってしまった以上、
「こんな感じでデザインしてください」とデザイナーさんに言うのはあまりにも失礼。
装丁をお願いするデザイナーさんたちをリスペクトしている。
自分の考えが及ぶ範囲を超えて、おおと唸るデザイン、アイデアを
出してきて、プラス方向で驚かせてくれるから。
なのにここまで来てるとなあ。
だったら自分でやってみるか!と気づいたわけですがその瞬間は
ちょっと緊張しましたね。
いままでも、カバーはこの写真でいきたいとか、
このイラストレーターさんでどうでしょうとか、
ほどほどイメージ固めてお願いしたことはたくさんありましたが
一から十まで決めていいとなるとそれはそれで肩に力が。
草野球公式戦初登板の日を思い出す。
というわけでここまでが実作業前の話。
ここからは今年に入ってデザインした具体的な事柄を。
実際のデザインを例に出して、考え方を開示しますね。
・・・・・・・・・・・・・・
少部数なので、コストをかけないようにしつつ
できるだけ売れそうで、かつ自分が現したいものをテーマに。
まずは、【本文組み】を↓
本文組み
1ページに、最大140字の文章を3本と決め、
1行から4行となるので、3本間の空きは左右いっぱいに使う中で調整。
重要なのはフォント決め。
日本らしく特太の明朝か、オピニオンの色を押し出すために
書籍としては異例の新聞明朝かとイメージ湧いてました。
で、8種類ぐらい実際に組んでみて、
横長でかなり大きなイメージに仕上がるこのフォントに決めました。
文字間、行間ともややタイト目に。
メッセージの暑苦しさが強調できればという狙い。
プロから見たら、ダサイと思われそうですが、
なにしろ目立たないと購入につながらないのですから、
四の五のこまっしゃくれたこと言っていられません。
天と小口側の空きスペースも同じようにかなりタイトに。
その代わり、地の空きスペースはあえてゆるめにしてトリッキーなイメージに。
ノド側の空きスペースは開いたときの読みやすさから広めです。
ノンブル。
で、で、でかい。
そんな必要ないだろうという声が聞こえてきそうと思いながら決めたら、
ホントにDTP組版の人から版元に確認きましたよ。
「これ大きすぎるのでデータが間違ってるはずです」
いいんです! このへんな印象の残り方は計算ではなく勘。
小さくして普通に収まりたくないのです。
横に<ー>を入れたもの同じこと。
本文用紙は<ソリスト>の80。
版元から提案のもので、ごく一般的な風合いとコスト安めの書籍用紙。
バニラ色っぽいところが好きでこれに決定。
192Pで束がそこそこ出る厚みで。
デザインしているうちに、薄いボール紙使ったハードカバーの
イメージが固まり、コストはかかり定価は上がる可能ありますが
本としての仕上がりー値頃感としてそちらのほうがメリットはあるだろうと
そうさせて頂きました。
彩流社に感謝。
表紙用紙のチップボール系の紙はかなり薄いの使ってます。16号というもの。
厚いのはこの本には野暮ったく感じるのであえて薄く。
企画通し用では、コピーなど横組みにしてましたが、
これは星条旗のラインに沿うほうがいけてるとすべて縦組みに変更。
ポイントは、帯をやめたこと。
最初は普通にアリで考えてまして、カラーで共紙使ってもいいのですが
(カバーと同じ紙で印刷すると紙取りの関係とかプレスの関係で印刷代安くできる)
この成り立ちとデザインなら、ナシでも同じだなと。
そもそも帯は、重版かかったり、トピックあったりしたら付け替えるためにある。
本のありよう、取り巻く環境がシンプルだった昔はそれが当たり前でよかったけど
いまはビジュアル面からも流通の面からも帯のメリットがないケースもある。
これは、自分で言ってしまうのもなんだが
すぐにがんがん重版かかったりニュース的な話しがのっかるとは思えない。
ならば、カバーに印刷してもいいじゃないかと。
断然コストダウンできるんですから。
さらにそもそもなのですが
カバー自体も、返本で戻ってきて再出荷するとき
汚れたの付け替えるからというのが大きな理由だったわけですが、
この論も部分的にはやや崩壊してるなと思ったりも。
もろもろな条件ありですが表紙だけでもいいこともあるなと。
これは長引くのでまたの機会に。
カバーは裏面まで含めて色使いは、
赤、紺、スミ(黒)、白の4色まで。
タイトルは超特太の明朝をさらに肉付け加工。
置いているうちに、さらに目立たせたくなり、版面からはみ出させました。
<★このエントリの一番上の画像参照。>
しかも背の部分まで。
棚差しになったら読みにくい(笑)けどそれもまた印象に残ってよいと。
なんだこりゃ、というね。
キャッチコピーメインはオーソドックスなゴシックで。
文字が沈み気味だったので、オレンジくくりを。
サブコピーは、本文と同じでオピニオンの感じを。
カバー裏面には、本文から3本引用。
前ソデ(折り返し部分)はけっこう大事だと思っているので
(カバー裏よりここのほうが購買につながる)
本文から、この人は何者だと思わせるものを1本大きく。
カバー用紙は、ツルツルピカピカがハマルだろうと、
グロスPP加工することにしたので、凝らずに安価なコート紙で。
続いては【表紙】。
これは購買にはまったく関係ないと言っていいので
いつもデザイナーさんに自由にやって頂いてる。
と言ってもどうでもいいってことじゃなく
表には見えないここにセンス感じる部分でもあり、
ここに気が利いたデザインされてると、この本いいなと思うもの。
カバーがアメリカ臭なので、こちら相対して日本臭で。
コスト的にも1色で抑えたいので
ここはやはり日の丸しかなかろうと堂々と表裏ともに。
表は、入れなければならない流通上のマストな文字要素をすべて日の丸内にイン。
丸みがあって細いフォントですっきり感を。
こちらはあえてローマ字でタイトルを大きく。
WA, の部分が気に入ってます。
裏は、同じじゃ面白くないので色を反転。
そこにでかでかと本文から強いものを1本。
日本とアメリカのことを入れたかった。
その印象を【総トビラ】につなげました。
でもタイトルはここは日本語で堂々といきたく、日の丸からはみ出させて。
コストかけられるなら、ここは本文用紙の1P目ではなく
違う紙使って<別丁トビラ>にしたいところですが、まあここは無理言わずに。
【中扉的ビジュアルページ】(5カ所)
本文は章分けなくひたすら180ページぐらい続くので、
時折ビジュアルで中休みページを入れようと考えましたが、
予算はかけられない。
そこで、用いたのが、<フリー素材>。
かっこいいデザイン界ではこれを使うこと自体を見下す傾向にあると感じる。
しかしここは使いよう。
僕は、15年前から2択チャート診断用に大量に持ってまして、
1時間ぐらい悩んで見ていて、手の写真に決定。
風景、モノ、火、水、空、などなどもはまらなかったけど
お、これは、いける!と。
200枚の中から5種をピックアップ。
ほぼ均等な空きで入れました。
人は一生懸命伝えようとすると自然に手が動く。
そんな強いメッセージを現すようにと。
あと、グリーンバーグ氏の考えの根底に流れるヒューマニズムもここに。
【まえがき】【あとがき】【グリーンバーグ氏年譜】【奥付】
あたりは、おとなしめの中ゴシック系で非常にオーソドックな組みとしました。
【見返し】
ここにもトリッキーなこだわりを。
見返しは紙に凝る人は凝りますが
僕はぶっちゃけ指定できるほど紙の銘柄を広く知らない。
ので、紙自体は超ベーシックで安めの、NTラシャ。薄めので十分。
ここまでは当たり前ですが冒険はその先。
前の見返しと後ろの見返し、色を変えました。
前が→紺。つまりイメージとしてはアメリカっぽく始まる。
後ろが→緋色。つまり読後感としては日本っぽく終わる。
これはかなり珍しいんじゃないかと思います。
見たことあったかなあ?
そんな本を知ってる人いたらコンタクトフォームから教えてください!
ソフトカバーならここまでで終わりですが、これはハードにしたので
まだ2案件、デザインを愉しめます。
まずは【花ギレ】(花布)
背の上と下にちろっと顔を出してる布のことね。
僕も書籍作り始めるまで名前など知らなかった。
何気ないけどここも気を通しておきたいところ。
この本の印刷所から使えるものの見本もらって以下を指定。
A35
赤と青系のがアメリカンなものがあればそれにしたかったが、
残念ながらなかったので日本イメージの紅白で。
最後に【スピン】。
しおりひも、ね。
この程度のページ数の本なら普通は1本しか付かない。
しかしここでまたまた、2色で赤紺を思いついてしまう。
「500以上のオピニオンがあるので印象に残ったところマークするのに
2本あるとさらによい本になりますよ」という後付けの理由もねじ込み
またまた彩流社・出口さんにお願いする。
コストが心配だったがなんとか制作部門も通過。。。ほっ。
そこで以下の2種で。
A21
A26
細い方がスマートに感じるし、コストも安いはずなので13打ってやつです。
と、
ざざざーっくりと、装丁に関わる要素のことを挙げてみました。
編集者とデザイナーは常にこのように現実と理想の狭間を埋めながら
よりよいものを目指しているのです。
以上、現場から石黒記者がレポートしました。
めちゃくちゃ面白いです。
買って損はさせない自信あり。
ぜひ。