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2010.4.13 ちょいマジオヤジ部

怖い人に学ぼう

今の親は子供を怒らなくなったとよく耳にする。
近所の人も親ともめたくないから悪いことしている他人の子を怒らない。
学校の先生も問題になることを恐れて怒らないらしい。
上司もやめられたら管理能力の問題となるから保身的に怒れない状況。
やくざは怒るだけではお金にならないから違う方法で迫る。
警察官も、ネットなどで無体な書き込みされても面倒なので怒りにくいか。
おおロミオ、誰がわたしを怒ってくるの?

僕が高校出て状況したてのある日、
中央線各駅でお茶の水から新宿に向かっていた。
その車内は空いていて、僕は座席に浅く腰掛け脚を通路に伸ばして
だらあああ〜〜〜っとした姿勢で座っていた。
そこへお茶の水側から、ごつい小太りにパンチ、
いかにもラインメン筋の人が歩いてくるのが視界に入った。
おっと本物だ目を合わせないようにしようと、
下を向いてじっと座っていたその時、脚が強烈な衝撃で跳ね上がった。
ラインメンは僕の脚を力いっぱい蹴り飛ばしたのだ。
痛いとか怖いとか感じる前に起こったことを認識できず
ただ唖然として顔を上げたら、
アメ横に売ってそうな辛子色のブルゾンを着たパンチの男が
すでに3メートルほど新宿方向にいた。
つまり、僕の脚を蹴飛ばしつつ早足ですたすたと歩いていってのである。
その間、一度たりとも僕のほうを見ず、進んでもまったく振り返らない。
じゃなま棒が出てたから蹴飛ばして進んだだけ、そんなテイ。
そこにいた小僧のことなどまったく眼中にない、去り行く背中にそう書いてあった。
1車両ぐらい離れてから、まずは超弩級の恐怖感が湧いてきて
<おおー、こうぇー!>と。
次に湧いてきた感情は反省だった。
<あちゃー、たしかにオレが歩いてて同じヤツいたら蹴飛ばしてくなるわな、
蹴飛ばす根性はないけど。。。>と思った。
プチヤンだったのでケンカはまあママゴト程度にたしなんでいたけど
さすがにホンモノは怖いに決まっている。
次に湧いた感情は、リスペクトだった。
だってね、明らかに人に迷惑をかけているのは自分。
それに対して悪いんだぞおまえはと伝えるために
ワンアクション起こしたわけである。
無視して脚をまたいだほうがラクだからね。
だが、またいだら次に誰かが迷惑する。
この見た目ちゃらんぽらんした小僧にマナーを教えてやらんとな、
と思ったかどうかは知らないけど、結果、背筋は伸びた。
このケースでは、明らかに強い立場からなのでリスクはないけど、
この人だったら、屈強そうな相手でも同じ状況ならやったかもしれない。
<かっこいい。あんな風に悪いことを悪いと人に伝えられるようにならねば>
この一件で世間の厳しさを知り、
特に人のいるところで迷惑になる振る舞いをしないようになれたつもりだ。
素性も知らぬこの辛子色のブルゾンパンチマンに感謝している。

それ以来僕は、電車やホーム、路上で人に迷惑かけている輩を見ると
まずおしとやかに、かつ毅然とした口調で御注意申し上げる。
文句ありそうな顔したら、少し声を張り目つきにリキ入れて
なぜそれが悪くてみんな迷惑しているかを説明して差し上げる。
それでもわかんない酔っ払いがいたら、「降りようか」「あっちいこうぜ」など
移動するのはいかがでしょうかと御提案。
だいたいここで終るけど終らない時は、どう転んでも最後は警察というのは同じ。

毎年ずっと見に行っている甲子園高校野球観戦でもマナーのない子供が増えた。
平気でネット際席の僕の前に立って視界をふさいだり
「すいません」もいわずに狭い通路をずんずん進んだり。
僕はもちろん本気で怒る。
「人の前を当たり前のように立つもんじゃないぞ!」
「すいませんぐらい言ってから通れよ!」
何年か前、ネットに群って大勢に迷惑かけてる傍若無人な小学生に
知らないオヤジが胸ぐらつかんで怒鳴りつけていた。
「このクソガキ! 親連れてこいや!」
すかっとした。ええでええで!である。
このオヤジみたいなのがいないと、社会はいい方向に進まない。
暴力がいいと言ってるのではなく、悪いことしたら怒られるという感覚を、
特に判断基準が見えない子供には染み込ませていいと思う。
だって怖くないと悪いことを自由にするからねえ。
犬のしつけも同じで、びしっと言う時言わないとやみくもに暴れたりする。

仕事だって怒っていい時はいいと思う。
怒らないでスムーズに流れていくほうがいいけど、
人間は理論より先に感情があったのだからそこを
抑制しなければいけないということもない。
悪いことして怒られれば納得するもの。
理不尽に怒るのはよくないし、そんな人はすぐ淘汰される。

「石黒さんって絶対人に怒らないでしょう?」
と言われたことが何度かあるが真逆です。
よっぽどでないとニコニコしてるけど
不誠実、約束反古などなど人としてどうなんだいう時は電話口で怒鳴ったりもする。
ここ8年ぐらいで電話の向こうで泣いてしまった女性編集2人、
驚きで言葉が出なくなった男子編集者1人。
でもたぶんその後、お互いの信頼は強くなったと実感している。

高校時代、毎日のように(誇張ナシ)殴られていた先生がいて、
その先生の人間味溢れる人柄、あたたかみはすばらしく、一生忘れられない方だ。
怒ることは、面倒なこと、相手とコミットしようということ、
その人に向上してほしいと思っている証。
どうでもいい人に怒るのは、お金儲け宗教とか脅迫ビジネス。
怒る人にはなっているつもりだけど、
もっともっと、怒られる人にもなりたい。

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