『ヤンキー文化論序説』ー『週刊文春』寄稿の書評
「ヤンキー部」では、ヤンキー関係の本やDVDや記事なんかも
ぼちぼちと紹介していきたい。
まず自分のアーカイブ的にも、
2009年4月の『週刊文春』書評欄に書いた原稿を。
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『ヤンキー文化論序説』
[編著]五十嵐太郎
[執筆・インタビュー]
都築響一、宮台真司、暮沢剛己、斎藤環、酒井順子、
近田春夫、永江朗、成実弘至、阿部真大、飯田豊、
磯部涼、大山昌彦、後藤和智、南後由和、速水健朗、森田真功
(ちゃんと高校を卒業してしまった…)という、やんちゃを極めた仲間に対するコンプレックスが僕にはずっとつきまとっている。同じような人も多いだろう。自ら進んでキレイな道から逸れていく友のキレ方は輝いていたし、当時は、そこまでトッコむ勇氣がない保身的プチヤンな自分を蔑んだ。結果、いつまでもヤンキー魂が内在心として潜み、ヤン臭漂うアイテムには食い付きがいい。というわけで、僕にとっては「地球印のゴム糊」なみに効きがよさそうな本の書評を「内側の立場から書いていただければ」となった。対談に登場の都築響一も指摘する<今回の執筆陣のなかには、元々ヤンキーの人はたぶんいないですよね>ということも踏まえ、本の作り手ではなく、扱われた当事者氣分で読んでみる。
東北大学大学院准教授の五十嵐太郎氏が、都築響一、宮台真司、酒井順子、近田春夫、永江朗、など16名の書き手、研究社たちに声をかけ、原稿、対談、再録などでまとめたもので、文化研究本という位置づけだろう。ファッション、音楽、マンガ、映画、アート、地域、女子、など、「ヤンキー」というキーワードから拡散していった事象を、テーマと関連付けてクロニクル的に総括。
ジャンルは網羅性を意識して広く取り上げられ、個々のネタも「なめ猫」「歌舞伎」「横浜銀蝿」「Bボーイ」等、今昔、硬軟、濃淡混合で、単語を追って読み進めるのも楽しい。文化論としての記述もしっかりしていて、ていねいにまとまった本であり、全体を読めば大づかみで「ヤンキー文化」が浮き出てくる。
しかしこれはあくまで「カルチャー語り好き所属ヤンキーファン」のためのもので、「ヤンキー好き」のための本とは言い難いかも。文化論だからそれで十分なのだが、欲を言えば、ヤン心を携える者に響くバイクのコール的なパッションが欲しかった。キレる寸前のあの“みぞおちが熱くなり頭に血が上ってくる”感覚が伝わってこない。たとえば、当事者の肉声があったら嬉しかったなあと。
僕は、ソリコミ、アイパー、長ランズドンドカン、酒、タバコ、アンパン、ゴム糊、ケンカ、集会、ハコノリ、などを少々たしなんではいたが、いつもビビっていた。それは“上には上がいる”という恐怖心から。ヤンキーの大部分は常に上を怖がっているのだ。そんな内面が吐き出されていればワクワクするのでは。
と書いたが、<本書はあくまで序説である。もっと語れるではないか、という声があちこちから上がって欲しい>とあるように、ヤンキーに注目が集まるうえで、この本が特攻隊として切り込んだ意義は大きく、プチ元ヤンとして、爆音のコール並の賛辞を送りたい。
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字数が少なく書けなかったが、
永江朗氏の原稿がすばらしかった。見解のリアルさが飛び抜けている。