知人の翻訳家の福光潤さんからの感想メールです。
感受性豊かな文面にしびれましたのでご紹介します。

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(前略)
アート・ディレクションや、言葉のキャスティング、
キャメラワークなど、まるで映画作品を見ているようです!

各ページ上下に余白を多めにとられているのも、
フィルムを横にズラしていくような感じですし、
ワイド画面の映画作品っぽいのでしょうか。
ちょっとセピアがかった印象もしますね。

また、こまかいBGM曲の指定もさることながら、
音場の表現が素晴らしくて、感動しました(特に第2話 海の犬)。

ボクの映画鑑賞ポイントはサントラなんですが、
映画作品における“音”の体感比率は50%以上。

まったく曲がなくて、水や風の音をフィーチャーする
タルコフスキーの映画も、その“音”と映像が、
言葉に匹敵するメッセージ性を帯びてくるのです。

活字媒体では、当然“音”はないはずなのですが、
アニメ化や映画化を意識したエンタメ作品では、
勝手にアタマの中でヒット曲のBGMが鳴ります。

レイ・ブラッドベリあたりの詩的な作品では、
自然の音が、3D音場を作って、自分を包みこんでくれます。

国語がニガテだった自分にとっては、
音の情景を無理なく想起させてくれる描写こそが、
本の世界にいざなってくれるカギでした。

『犬がいたから』では、そんな“音”のカギで各章の扉をあけて、
石黒さんの頭の中のワンちゃんにご挨拶、という不思議な感覚があります。

無音や、かすかな音、そして爆音まで、
ダイナミックレンジも広いですし、
色彩ゆたかなサラウンド空間の中心には、
常にワンちゃんの温もりという“音”が、
息づいており、1/fゆらぎを出しています。

各短編が余韻を残してくれますので、
活字にはないフェードアウト部分を大切にしたく、
すぐに次のエピソードにうつることができません。

歓声の途切れぬうちに次のナンバーにうつるような、
ノリのいいジャンルのライブ盤ではなく、
ドーナツ盤のA面を集めたオムニバス盤といったところでしょうか。
お気に入りの1話を繰り返して読みたくなるような。

帯では、人と犬のコンチェルトと書かれていますが、
章構成の方は、組曲(スイート)ですね。
1本の糸で数珠つなぎになっているのではなく、
中心にいる犬のモチーフから、放射状に各エピソードが存在しています。

ということで、久しぶりに文芸の醍醐味に取りつかれ、
興奮してしまいました。

少しの間奏、もとい、感想が、ちょっと長くなってしまい、すみませんでした。

あと、表紙の先輩ちゃんの目には、思わず吸い込まれてしまいました!